BSL-4施設の都心移転——なぜ今、新宿に?
BSL-4施設の移転計画とは
東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所(感染研)のBSL-4施設が、新宿区戸山にある感染研の本所敷地内へ移転する計画が進んでいます。
BSL-4(バイオセーフティレベル4)とは、現存する感染症研究施設の中で最高の封じ込めレベルを指します。エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサ熱ウイルスなど、現時点で有効な治療法またはワクチンが存在しない、致死率の極めて高い病原体を取り扱う施設です。
武蔵村山の施設は1981年に開設され、長年にわたって稼働してきました。しかし老朽化を理由に、より設備の整った新施設を戸山に建設する方針が固められました。
都心移転のリスク
人口密集地という問題
新宿区戸山は、周囲に住宅街・大学・病院が密集する都心です。武蔵村山市は相対的に人口が少なく、万が一の際の影響範囲も限定的でした。一方、新宿区は人口密度が全国でも最高水準にあり、同じ「万が一」が桁違いの被害につながる可能性があります。
輸送リスク
移転にともない、現在武蔵村山で保管されている危険病原体を都心まで輸送する必要があります。交通事故、自然災害、あるいは人為的ミスによる漏洩リスクは、輸送という工程が発生する以上、ゼロにはなりません。
災害との複合リスク
日本は地震大国です。首都直下型地震の発生確率は今後30年以内に70%程度とされています。都心のど真ん中に最高危険度の病原体施設を置くことは、地震・火災・液状化などとの複合災害リスクを高めます。武蔵村山に比べ、戸山は地盤や避難経路の面でも課題が指摘されています。
住民・周辺機関への説明不足
移転計画の検討過程において、近隣住民や周辺の大学・病院への十分な説明と合意形成が行われたとは言い難い状況です。それどころか、検討の内容や具体的な候補地については、今後の議論に支障をきたすため公開しないとされています。候補地と予想している住民の不安は高まる一方です。2025年に、候補地とされている新宿区戸山の旧公務員宿舎の解体が始まりました。
なぜ今、エボラ研究なのか
日本国内での感染実績はほぼゼロ
エボラウイルス病は、これまで主にアフリカ中央部・西部で発生してきた感染症です。日本国内で爆発的な感染があったり、インフルエンザの様に毎年の流行性があるものではありません。国内における直接的な公衆衛生上の脅威という観点では、インフルエンザや結核と比べてはるかに優先度は低いはずです。昨今増え続ける移民との関係もあるかもしれません。
誰のための研究か
感染リスクがほぼない国でBSL-4施設を拡充し、エボラ研究を強化することには、純粋な科学的合理性だけでは説明しきれない背景があるように思えます。
考えられる文脈としては、アメリカをはじめとする軍や研究機関との連携・共同研究、あるいは将来的な生物防衛(バイオディフェンス)戦略との関係が挙げられることがあります。資金にビル・ゲイツ氏が関わっているというのも「純粋な医学研究」と断言し難い理由です。
リスクとベネフィットの非対称性
仮にエボラ研究に一定の学術的意義があるとしても、それを人口密集地の都心で行うことのリスクとベネフィットは釣り合っているでしょうか。
研究の恩恵を受けるのは主に国際社会や将来世代ですが、事故が起きた場合に被害を受けるのは新宿区およびその周辺に暮らす数百万人の市民です。研究のために感染させたマウスが逃げ出すことなど、想像してしまうでしょう。このリスクの非対称性について、政府や施設は正面から答える義務があると思います。
おわりに
BSL-4施設の移転問題は、「安全かどうか」という技術論だけで片付けられる問題ではないはずです。なぜその場所に、なぜ今、誰のためにその研究をするのか——これは問い続けるべき問題だと思います。